本屋でこの本のタイトルをみたとき、あまりにシンプルかつ衝撃的だった。山深く分け入る僕にとって疑問だらけでほんとうのところを知りたかったからだ。

これほどクマについて詳しく語られた本はない。
「クマにあったらどうするか」
さて、どうする?僕は大学のころ一度だけ北海道でクマに遭遇したことがある。遭遇したというか、キャンプ設営中に向こうから近づいてきたのだ。焼肉をしていたから無理もない。いま考えたらアホなことをしていた。いまこうして生きていることがラッキーだったと今更ながら思うし、あの時の緊張感はいまでも鮮明に脳裏に焼き付いている。
その時も接近してくるまでは全く気付かなかった。熊は首がないので姿を見せることなく笹の下を歩く。よく熊は枝をボキボキ折りながら歩いているという人がいるがあれはウソ。もちろん、かすかな音はするがほとんど音なく森のなかを歩くことができる。
その時はどうしたかというと、正直に申すとあまりの恐怖に腰が抜けて金縛りになったような感覚になる。一緒にいた仲間が「はやく車に乗って!」というのだが、まったく力が入らないのである。友人は銃を構えていたが、銃って至近距離だとまず当たらない。万が一外した場合最悪のことになる。僕は「撃つな!」と振り絞って叫んだ。
幸いなことにクマはそのままUターンしてくれた。距離でいうと5~6メートルだったろうか。この出来事以来、クマとの遭遇はない。単にラッキーなだけだ。実際、襲われているひとは毎年、何人もいるので、単にラッキーなだけだ。今年、7月に阿寒川で釣りをしてたわけだが、やはりそのときもビクビクしていた自分がいた。
僕は実際に道南でヒグマに襲われ運ばれる遺体を見たことがある。その方は山菜取りに来たらしいが、顔半分と片方の膝から下がなかった。このときクマの恐ろしさと爆発的なパワーを目の当たりにした。クマが人を意図的に襲うということはめったにないと思うので、ちょいと出合い頭にジャレたつもりだったのかしれない。
この本は姉崎さんという北海道で実際にクマ撃ちをして生計を立てていたプロ中のプロのハンターが書いているので、ひじょうに臨場感もあり、実践的だ。
クマよけには鈴がいいとか、爆竹がいいとかあるが、襲われた人はきちんと鈴をつけている。僕もつけているが、効果のほどは半信半疑だ。
いちばん印象に残っているのは、クマよけにはペットボトルをグシャッとやったときの音が効果的だということ。クマよけ鈴を聞き慣れてしまったクマにはたしかにいいかもしれない、ということで僕は空のペットボトルをリュックにぶら下げて歩きながらパリパリやってる。最近の三種の神器は、クマスプレー、鈴&笛、そしてペットボトルだ(4つか)。爆竹もいいだろうが、山火事の危険性があるので使わないようにしている。まあどれも気やすめだろうが、精神的にいくらかは落ち着く。
姉崎さんは「クマは師匠」だという。山の中にいるとクマからいろいろなことを学ぶという。人間はあくまで勝手にクマの庭先に侵入している「不法侵入者」みたいな存在なのだと思う。だから、僕はいつも山に入るときには「挨拶」をして入山するようにしている。「お邪魔いたします」と。するといくらか気が休まる。

この笛をいつもぶら下げている。沿岸警警備艇で使用するタイプで遠くまで音が通る。
ちなみにクマが人を一回でも襲うと、必ず見つけ出して射殺する。一回でも人を襲うことを覚えたクマは積極的に人を襲うようになるからとのこと。なんとも理不尽ではあるが、仕方がないのかもしれない。
人を一度でも襲ったクマがどれほどヤバいかはぜひとも「三毛別熊事件」で検索してみていただきたい。身の毛もよだつ内容なので注意されたし。

これはツキノワグマの爪だが、こんなんでビンタされたらひとたまりもないね。
総じて日本のフライフィッシングは山奥にはいることが多い。だから、どうしてもクマを意識せざるを得ないが、じたばたしても仕方がないので、尊敬と畏怖、感謝の念を忘れずに続けていくしかないのかもしれない。個人的にはアブとスズメバチのほうが怖いけどね。
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